インド・イスラム建築の傑作のひとつ「フマユーン廟（Humayun's Tomb Delhi）」は、インドの首都デリー南部に位置する観光名所で、ムガール帝国第2代皇帝フマユーンの妃が16世紀に建てた霊廟です。1565年に着工され、9年の工期を経て完成しました。帝国最盛期の第5代皇帝シャー・ジャハーンが建てた総大理石のタージ・マハルにも影響を与えた霊廟で、タージ・マハルより10年遅れの1993年（平成5年）にユネスコの世界文化遺産に登録されました。

フマユーン廟は高さ21メートル、幅48メートルの霊廟で、21.6ヘクタールの広大な敷地に南アジア最古のペルシャ式庭園10ヘクタールを有することでも知られます。従来のヒンドゥー建築やインド イスラム建築とは一線を画していることから、のちのムガル帝国における廟建築の先例として位置付けられています。

フマユーン廟は上下2層のゴージャスな構造で、東西南北にそれぞれ同じファサード（正面）をもっています。砂岩と大理石でできた上層部分は、中央ドームの周りにインド風の「チャトリー」と呼ばれる小さな東屋のような装飾があり、さらに屋根の各コーナーには小さなミナレット（尖塔）がいくつも建っています。

ペルシャ独特のアーチを描くイーワーンの中にはさらに2段構造のアーチが控え、入れ子式のような複雑な外観になっています。赤い砂岩と白い大理石のコントラストが効いたモザイクもおしゃれですよね。フマユーン廟の随所に見られる美しい透かしが施された窓は、職人の手によって赤砂岩から丹念に掘り出されたものです。涼しげで繊細に見えますが、5センチ前後の厚みがあるしっかりした造りです。

フマユーン廟の内部には、フマユーン皇帝のほかフマユーン廟を建てた妃ハミーダ・バーヌー・ベーグムと王子ダーラー･シコー、宮廷の要人など計150名が葬られているそうです。中央にある玄室には“セノターフ（Cenotaph）”と呼ばれる大理石の模棺が安置されており、実際に遺体が入っている本物の棺はこの真下に収められています。

フマユーンは1540年のアフガン人との戦いに敗れて領土を失い、ペルシャへと追われて15年間の亡命生活を送った皇帝です。のちにデリーを奪還してふたたび北インド征服に成功しましたが、そのわずか半年後に裾を踏んで階段から転落し、頭を強く打って2日後に亡くなってしまいました。亡命中に結婚したのが当時14歳のハミーダ・バーヌー・ベーグムで、ムガル帝国第3君主となるアクバルの母です。

フマーユーン廟の広大な敷地の中には、他にもイスラム教のモスクやゲートなどの美しい建築物が点在しています。フマユーン廟から西に約200メートル、徒歩3分ほどの場所に築かれた「宰相イーサー・ハーンのモスク（Tomb and mosque of Isa Khan）」は、1547年頃に建てられた霊廟で、スール朝シェール・シャー時代の将軍イーサー・ハーンが眠っています。

シェール・シャー（Sher Shah）こそフマユーン皇帝を破って君主の座を奪ったスール朝の創始者で、わずか5年の統治の間にすぐれた手腕を発揮して領土を拡大したアフガニスタンの名君です。現在の通貨“ルピー”を初めて発行したのもシェール・シャーでした。イーサー・ハーンはそんなシェール・シャーの下で活躍した貴族で、正八角形のフォルムが美しいモスクはスール朝の墓の特徴を備えているそうです。

所在地：Mathura Road, Humayun's Tomb complex, Nizamuddin, Nizamuddin East, New Delhi, Delhi 110044
アクセス：フマユーン廟より徒歩3分

ムガル建築の最高峰とも評される第2代皇帝の霊廟「フマユーン廟」をご紹介しました。子の霊廟は、1857年のインド大反乱で最後の皇帝バハードゥル・シャー2世が立てこもり、イギリス軍によって英領ビルマに追放されたことから、「ムガル帝国終焉の地」ともいわれます。

所在地：Opposite Dargah Nizamuddin, Mathura Road, New Delhi, Delhi 110013
TEL：+91 11 2435 5275
営業時間：6:00～19:00
料金：Rs 500
定休日：なし
アクセス：バス停「Police Station Nizamuddin」下車