フランス北東部に位置するライン川左岸の都市ストラスブールはドイツと国境を接し、フランス最大の河川港をもつことから古くより商業で栄えた街です。そんなストラスブールの観光名所のひとつに「アルザス地方博物館（Musee Alsacien）」があります。イル川を挟んで旧市街の対岸に位置するスポットで、フランスでもっとも小さな村アルザス（Alsace）の伝統文化にまつわる資料を展示している施設です。

フランスとドイツの国境に位置するアルザスの町は、かつて1871年の普仏戦争をはじめとする戦争に翻弄され、フランス領とドイツの領の間で揺れた歴史をもつ地域です。もともとはローマ領であり、神聖ローマ帝国時代はドイツに属していたことから、今もドイツ色の濃い街並みが残っています。

アルザスの伝統的な建築様式である木組みの家と、メルヘンちっくな看板が可愛いアルザス地方博物館は、1907年（明治40年）にオープンした歴史のある民族博物館です。間口は狭いですが奥行があって中は広く、小さな中庭を囲むように建つ木造民家の内部はすべて展示スペースになっているので、たいへん見応えがあります。

アルザス地方博物館の展示は、生活道具から民族衣装まで多岐にわたります。そのコレクションの多くは、1750年から1860年を再現したもので、おもに農民の日常生活と、儀式や風習などの信仰を表しています。オリジナルに忠実に改修されていますが、当時の記録が残っていない場合には、オリジナルが不明な部分に関しては当時の典型的なスタイルで補うなど、当時の雰囲気をできるだけ壊さない工夫が施されています。

アルザス地方博物館では、アルザスの伝統的な生活用具や民族衣装など約50,000点のコレクションを所蔵し、そのうち常時5,000点を展示室で公開しています。しっくい壁のキッチンにぶら下がる金物や調味料入れ、家具などは、どれをとってもドールハウスのようにかわいいインテリアです。受付けで貸し出ししているオーディーガイドは日本語に対応していませんので、アルザス地方博物館を訪ねるときは少し予習していくと楽しめそうです。

独特の渦巻きが特徴のお菓子「クグロフ（Kouglof）」はアルザス地方の伝統的な食べ物のひとつです。オーストリア、スイス、ドイツ、フランスの幅広いエリアで愛されていますが、アルザスでは日曜日の朝に焼くパンと決まっており、アルザス産白ワインによく合うレシピになっているといわれます。

アルザス地方の結婚や出産、葬儀などの儀式は、キリスト教のカトリックやプロテスタント、ユダヤ教の習慣に従っています。ユダヤ人が西ヨーロッパ中から追放された16世紀初頭、アルザスは神聖ローマに最後まで残ったユダヤ人の村でした。16世紀には宗教革命都市だったこともあり、カトリック信者が多くを占めるフランスに比べ、アルザスにはプロテスタント信者が多いのも特徴です。

一方でアルザス地方でもカトリック信仰ならではの「聖母マリア」や、「守護聖人」が崇拝されています。アルザス地方の守護聖人である聖女オディール（Sainte Odil）は、生まれつき盲目でしたが、その後パルマの修道院で育ち、キリスト教の洗礼を受けたことで目が見えるようになったとの伝承が残っています。

世界遺産の旧市街「ストラスブールのグラン・ディル（Grande Île）」から歩いてすぐの素敵なスポット「アルザス地方博物館」をご紹介しました。2007年に開通した高速鉄道TGVならパリから2時間ほどの距離にあるため、日帰り観光にもおすすめです。

所在地：23-25 Quai Saint-Nicolas, 67000 Strasbourg,
TEL：+33 3 68 98 51 52
営業時間：10:00~18:00
料金6.5€
定休日：火曜
アクセス：Corbeauバス停下車